与那国奇譚 宗教法人

「ここに聖媧寺院を建立するにはどうしたらいいんですか?」
 葉が質問した。
「日本での宗教法人の設立には時間がかかります。まず支部を作って3年ほど経ってから推薦団体や推薦人なども記載した申請書を文化庁と言う役所に出しレ許可をもらう必要があります。詳しくは後日、文化庁から書類を取り寄せてお送りします。それと、日本ではもちろん、宗教法人には課税されません」
 藤田がそう言うと、鄭の秘書の徐や葉の部下の劉は真剣にそれを手帳にメモしている。
「・・・ですから、まず与那国に基隆科技公司の日本法人を設立し、そこが新川鼻に用地を買収し、それからそれを聖媧教支部に貸し、支部が寺院建設許可の申請を出すという流れが現実的と思われます。それから、台湾旅游公司も与那国空港周辺に会社を設立されたら如何でしょう。私たちは、花城さんや上原さんと一緒に投資経営ビザ申請のための受け入れ会社を祖納に作ろうかと思っていますが、花城さんや上原さんは如何ですか?」
 藤田がにこやかにそう話しかけると、まず花城が、
「那覇に本社を置いて与那国に支店と言う案がいいと思います」
と、固い表情で答えた。すると、今度は上原が、
「なんで那覇なんでしゅか? 那覇はいらない。与那国だけでいい!」
と反論した。
「県庁や官庁の沖縄事務所と常に連絡できなきゃまずいでしょう!」
「そりなら、那覇に支店を作りばいい」
 何か仲間割れしそうな雲行きになって来たので、藤田は、
「まあ、まあ、そう言うことは後で話そうではありませんか」
と2人を宥めるのに必死になった。
「台湾の人たちは与那国と仲良く仕事したいんでぃ、那覇じゃない!」
 上原はそう呟いて口をつぐんだ。
「クルーザーで久良部港に着いたら、まず入国手続きをして、西崎の近くに作るホテルにチェックイン。その日はホテルの宴会場で与那国の踊りや歌を見ながらディナー。翌日はクルーザーで新川鼻。聖媧宮に参拝してから潜水艇に乗って海底神殿見学。聖媧宮別院で紀元前1万2千年前から現在に至る壮大な歴史絵巻をコンピューターグラフィックを使って製作する映画を観賞し、素食ランチ。午後は島内一周観光。翌日からは石垣、西表、宮古とこれもクルーザーで周遊してから、帰国するかそのまま那覇、大阪、東京と旅を続けるか、ツアー企画もたくさん用意できそうです・・・」
 台湾旅游の呉はさらに旅行プランを熱っぽく語りだした。
「・・・ただ、台湾の一般の人はようやく海外への観光旅行ができるようになったものの、まだ、パリやロンドン、ローマ、あるいはニューヨークとロスアンジェルスやサンフランシスコへの駆け足旅行が主流なのです。気候が台湾と変わらない与那国や沖縄本島などにどれだけ魅力を感じてくれるかはわかりません。しばらくの間は、日本への投資移民視察ツアーとするのが一番良いかもしれません」
「ちょ、ちょっと待ってください。投資移民ツアーはまずいですよ。日本政府からクレームが入って、ビザ取得にも苦労するようになるかもしれません」
 藤田は慌てて呉の言葉を遮った。
「でも、投資経営ビザなんて言葉だと誰も魅力を感じてくれませんよ。それに日本で会社を作るなんて・・・第一、それって赤字の会社なんでしょ? 儲からず、いつ潰れてもいいような会社なんて、誰も作りたがりませんよ」
「どうすれば会社が儲かるか、潰れずに続けられて最後には永住ビザが取れるようになるかは、これから日本側でいろいろ検討してみます。でも、遺跡と寺院、そして観光業が主体になれば、相乗効果でウィン、ウィンの関係が作れると確信します」
「藤田先生、カジノ案、ぜひよろしくお願いします!」
 鄭がそう発言した。
「そうだ、それがありましたね。ステップを踏んで実現できるようにしましょう」
 藤田の頭に浮かんだのは、すぐにも許可が取れるギャンブルだった。
 パチンコは台湾でも人気でかなりの広がりを見せそうになったが、賭博禁止法にひっかかってダメになったが、今でも竹聯幇と言う、台湾最大の暴力団が非合法でやっているらしい。競馬、競輪、競艇の中では、最後の競艇が一番始めやすい。すでにボート漕ぎ競争があるから、それを工夫すればパチンコみたいに景品獲得の遊びにできるだろうと考えた。
 それを説明すると、鄭より葉の方が関心持ったようだ。
「占いと結び付けたらどうかしら?」
「占い?」
「商の時代の亀の甲羅の占い、八卦、占星術も古代中国では盛んでした。それに風水。いえね、聖媧教にはそれらを取り入れた占いがあるのです。それに日本では合法な宝くじ。これらを組み合わせれば、鄭董事長お得意のカジノ・ツアーみたいなプランがきっと作れますよ。いや、私が作りましょう」 ―この葉と言う女性は確かに頭が良い。人の心も読むのが得意なのだろう。だから超能力少女変じての新興宗教教祖に収まることができたのだ。こうして美女ばかり揃えてここに来た理由も明らかだ。なんだか嫌な予感もするが・・・。

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